「北欧流」

豊かな暮らしを楽しむ

 「北欧」の国々といえば、ノルウェー王国・スウェーデン王国・デンマーク王国・フィンランド共和国・アイスランド共和国などが挙げられる。広大で美しくも、厳しい自然環境にあるこれらの国々は、ヨーロッパ経済の中心から離れていたこともあり、独特の文化を築いてきた。
 「北欧ブーム」の続く日本では、卓越したモダンデザインの家具や家庭用品、暖かな色使いのテキスタイルデザインなどが人気を集めている。北欧のプロダクトと知らずに使っているモノもあるほど身近な存在になった北欧。だが、その文化や暮らしについてはあまり知られてないのではないか。北欧とは、近くて遠い国々なのかも知れない。



 北欧5か国のうち人口、面積ともに最大のスウェーデンは、スカンジナビア半島の東側、バルト海に面し、デザイン・福祉・環境の先進国というイメージがとりわけ強いが、アメリカ、イギリスに次ぐ世界第三位の音楽輸出国という一面もある。例えば、1970年代半ばから80年代に世界的に活躍したポップグループ「ABBA」や、90年代の日本の音楽シーンに、「スウェディッシュポップ」として大きく取り上げられた「カーディガンズ」を連想する人は多いだろう。 また、児童文学では、「長くつ下のピッピ」「ニルスのふしぎな旅」「小さなバイキング」はいずれもスウェーデンの作家の作品である。幼少の頃に、これらの作品に親しんだことを思い出す人も少なくないのでは? 日本人は意外とスウェーデンの文化に接しているのだ。

 特集「北欧流」は、首都ストックホルムの住宅事情という切り口で、スウェーデンの魅力を、「ハウジングニュース流」にお伝えしたい。これら北欧諸国について興味を持っていただく手がかりになれば幸いである。

北欧のヴェネツィア

北欧の美しい水の都 ストックホルムの住宅事情

 スウェーデンの首都は、北欧最大の都市・ストックホルム。バルト海に流れ込むメーラレン湖上の14の島々が橋で結ばれた、まるで水の上に浮かんでいるような美しい街だ。人口は80万人弱、総面積は200㎢余り。
 この街でとりわけ魅力的なのは、インテリアブティックやショッピングセンターが立ち並ぶ大都市という顔を持ちながら、公園や森、散策地域が中心部を横切り、街の四方は水と緑地に囲まれているという点だ。
 また、ストックホルムの発祥の地である小さな島・ガムラスタン地区では、歴史ある古都の趣が感じられる。ここには、石造りの壮麗な王宮や美しい教会が立ち並び、古い絵画を思わせる。暗くなれば、街灯の光が壁や石畳をさらに美しく照らし出し、まるで中世の世界に迷い込んでしまったかのようだ。1000年以上も昔の街並みを大切にし、保存・活用しているのだ。


 スウェーデンの企業として挙げられるのは、世界最大の家具チェーンイケア、自動車メーカーのボルボやサーブ、日本でもエスプレッソマシンなどが人気の、ヨーロッパ第2位の家電メーカー、エレクトロラックスなどだ。なかでも世界最大の通信インフラメーカーであるエリクソンの本社はここストックホルムにある。スウェーデンは科学と発明の国でもあり、牛乳などに使われるテトラパック、自動車のシートベルト、コンピュータのマウス、GPSシステムなど、日本でも身近な製品が多く生み出されている。
 発明といえば、ノーベル賞の創始者アルフレッド・ノーベルはここストックホルムで生まれた。ノーベル賞の授賞式や晩餐会は、ストックホルム市庁舎で行われる。1900年代初頭に建設されたこの建物は、メーラレン湖のほとりにあり、遠くから眺めると、調和と秩序を保った姿が湖面に映り美しい。しかし、近づいてみると、中庭の回廊、さまざまなデザインの窓や扉、金箔をふんだんに使った豪華な黄金の間など、同じ建物とは思えない位変化に富んでいて、この街の様々な表情との符号を感じてしまう。



 自然の恩恵と、歴史の伝統と、新しい技術やモダンなデザイン。それらが自在に交じり合うことが、ストックホルムの魅力なのだ。

買うも借りるも順番待ち

 スウェーデン人の平均所得は男性400万円、女性300万円位。税金は日本よりずっと高いので、税引き家族収入は400~500万円ぐらいということになるだろう。しかし子どもがいる場合は、教育費は給食費に至るまでほとんど無料。18歳までは医療費もかからず、毎月1万円弱の児童手当も受けられる。これも日本との違いのひとつだ。

 しかし、ストックホルム市内に住むことは容易ではない。一戸建ての価格は、近年どんどん上昇し、130平方メートルで4800万円を超え、共働きの夫婦が払える値段をはるかにしのいでしまっているという。空前の上昇傾向は昨年末から多少落ち着いているようだが、新築だけでなく、中古も高いことに変わりはない。

 そこで賃貸という選択になる。まず業者に手数料を払って登録し、順番を待つのだというが、物件は非常に少ないため、早くて1年、条件の良いところでは何と10年待ちの物件もあるらしい。

 どうしても物件が見付からない時は、「アンドラハンド」、つまり又貸しに期待するしかない。例えば短期の海外出張や転勤があった人が留守の間、別の人にまた貸しする。貸す側の都合で数ヶ月から1、2年で引っ越しを余儀なくされるのは当たり前だ。希望者は山ほどいるので、大家も契約を長期にしないとか。
 現在ストックホルムにあるアパートの多くは1950年代から70年代初めに建てられたものだ。60年代は建築ラッシュだったようで、50年代に建てられたアパートの方が作りがいいというのが風評だという。
 中心部にあるアパートは築100年以上のものもかなりあるのだが、いざ部屋に入るとモダンで近代的なものが多く驚く。これも人々のこだわりを感じる点の一つで、壁紙の張替えからペンキの塗り替え、床の張り替えまで自分たちで行ってしまうのだ。長く使うための努力を惜しまないどころか、楽しみの一つになっている。

北欧に暮らすことの魅力

 室内はセントラルヒーティングのシステムで、温度は24時間、20度程度に保たれる。極寒の冬でも、家の中ではTシャツ一枚でOKなのだ。また、どの家庭でも靴を脱いで家に入る習慣があり、日本人でもゆっくりとくつろぐことができる。

 余談になるが、スウェーデンの若者の多くは洗濯機を持っていない。というのも、アパートの最上階かベースメント(地下室)、もしくは別棟には洗濯機と乾燥室を備えた場所が用意されていて、予約は必要だが住人はそれらをいつでも使用する事ができ、洗剤さえ自動補給なので便利なのだ。マナーは大変よく、洗濯が終わったら必ずこぼした洗剤や糸くずなどをきちんと掃除するのが当たり前なので、至って清潔でもある。

 時間が止まったような長い冬の間は、マイナス10度前後くらいの気温が続き、ストックホルムでもまれにオーロラが見られるという。そんな冬の間は圧倒的に家の中で過ごすことが多いのだから、この国の人々の家に対するこだわりは、考えてみれば当然のことなのかもしれない。
 つまり暮らしのすみずみに浸透した素晴らしいデザインの数々も、生活環境をより良いものにし、日常の生活を楽しもうという遊び心が生み出したものだ。この国の人々は、自然と共存し、決して抗おうなどとはしていない。心底自然を愛しているのだ。

 北欧のプロダクトや文化がここまで日本に浸透したのは、日本人が心のどこかで感じている自然に対する畏敬の念が、自然を愛するスウェーデンの人々の心と響き合ったからかも知れない。
 私たちの日常をより楽しく、豊かにするには、北欧の文化や暮らしについて、もっと知り心を巡らすことが必要ではないだろうか。